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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)228号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告の費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は末尾に添えた別紙記載のとおりである。

第一点について。

昭和二二年度から適用する青森市民税賦課方法条例中一部改正条例が、本件賦課処分に先つて青森市公告式に従つて適式に告示されなかつたことは原判決の認定するところである。論旨は原判決は右の事実を認めながら、右改正条例が有効か無効かの判断を明かにしていないというのであるが、原判決が理由中に「改正条例が効力を発生しないときでも(以下略)」として本件賦課処分の効力について説明を加えているのは、原審が本件賦課当時、右改正条例は未だ効力を発生していなかつたと判断していることを示すものであつて、論旨に理由はない。

第二点について。

論旨は原判決が本件改正条例が告示されなかつた事実の法的影響を等閑に附したのは違法であると言うのである。前述のように本件市民税賦課当時は改正条例が未だ効力を生じていなかつたことは原判決の判示するとおりであるが、改正条例が効力を生じていない以上、改正前の条例はなお効力を持続しており、従つて被上告人は改正前の条例によつて市民税を賦課することはできたのである。被上告人のした本件課税処分は改正後の即ち当時未だ効力のなかつた条例によつたものであることは、争いのない事実であるけれども、改正条例は単に市民税の税率を改めたに過ぎないものであるから、改正前の条例によると、改正後の条例によるとは、税率、賦課金額の相違を来すのみである。行政処分が法令に違背して行われたからと言つて、直ちに当然にその行政処分が無効であるとは言えないのであつて、本件のような違法は本件賦課処分を法律上当然に無効ならしめるものではないとするを相当とする。原判決は右の法理を説明したままであつて、原判決に所論のような違法はない。もつとも本件のような違法な賦課に対し行政事件訴訟特例法第二条による訴が提起されたときは、裁判所はこれを取消すべきであるかも知れないが、本訴が賦課処分の取消を求める訴でないことは訴状並口頭弁論調書の記載により明かである(此の点は上告人自身上告理由で主張して居る)原判決はこの点に関し上告人の本訴は取消を求める趣旨をも含んでいるものと見られないこともないとして取消すべきかどうかについて判断をしているけれども原審は所論の様に本訴請求を「すりかえ」たものではない、訴状の記載に従い判決理由前段において無効確認の訴として審理判断をした上、更に後段において取消請求の訴を含むものと見ても理由がない旨判示したのである。しかして本訴は無効確認の訴であつて取消請求の訴でないこと前記の通りであるから右前段の判断が存する以上後段の判断は結局無用蛇足のものであつてこれに対する非難は上告の理由としては採用に値しない。

第三点について。

論旨は原判決が行政事件訴訟特例法第一一条によつて上告人の請求を棄却したのは違法であるというのであるが、同条が行政処分の取消又は変更を求める訴について適用される条文であることは、同条の明文に照して明かであり、前述のように本訴は賦課処分の取消又は変更を求める訴ではないのであるから、本条の適用される余地は全くなく、原判決がその点について判示したのは無用の判示であつて、当裁判所がその当否を判断する必要は認められない。論旨は理由がない。

よつて訴訟費用は上告人に負担せしめることとし主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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